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七草文庫

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絵本

公園で、絵を描き続けている老人がいた。彼は飽きることなくいつも同じ絵を描いていた。何枚も、何枚も、来る日も来る日も書き続けた。しかし、よく見れば少しずつ絵は変化していた。初めは美しい野原だった絵は、黄昏を迎え、やがて荒野となった。それはごく微量の変化だったが、何十年という年月を重ね野原を荒野へと変化させた。老人は黙々と筆を走らせた。彼には知人が居ない。だから描き続けるしかないのだ。

 ある日、一人の少年が老人の絵を盗んだ。一枚ではない。老人が何十年も描き続けた絵を全て盗んだのだ。少年はお金欲しさに其れをどうにかして売ろうと考えた。しかし、名声のない老人の絵が売れるはずがない。少年は知恵を絞った。どうにかして売ることができないだろうか。

 少年は膨大な絵を紐で閉じ、一冊の絵本にした。野原が荒野になる、ストーリー性のないただの画集だったが、少年はそれをとある少女に売ることが出来た。

 少女は小柄なかわいらしい少女だったのだが、絵本を見るなり気に入って、大きなお財布から札束を少年に渡し、その絵本を持って帰った。少女の家は町の郊外にあるお屋敷で、「炭鉱長者」の所有物だった。

 

 おかえり、おや、その本はどうしたんだい。

 

 お父様、ただいま帰りました。路上で少年が素敵な絵本を売っていたので買ってきたのです。どうでしょう、お父様もきっとお気に召されると思うのですが。

 

 少女が父親にその絵本を見せると、父親は繭を顰めると絵本を閉じ、少女から絵本を取り上げた。少女が不思議そうな顔をすると父親は言った。

 

 この絵本はどこで買ったんだ。いい子だから、お父さんに教えなさい。

 

 父親は少年へとたどり着き、やがて老人へと辿り着いた。しかし、父親が老人へ辿り着いた頃、老人は既にそこには居なかった。

 公園には真っ黒に塗りつぶされたキャンバスがぽつんと残っていた。

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