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ほころび

たまにわからなくなってしまうことがあるんだ。僕が本当に僕なのかってね。僕には恋人がいて、家族もいて、友達もいる。でも、本当に僕はわからなくなってしまう。僕が僕なのかってことが。おかしいだろう?僕もわかっているんだ。

 

 私には恋人がいて、その恋人はたまに変なことを言う。

「僕が僕じゃなかったらどうする。」「もしも僕が君の知らない人間だったらどうする。」「君は本当に僕の事を知っているのかい?」「僕は僕のことを知らないかもしれない。」

 私はその意味がわからなくて、時々こわくて泣いてしまうけれども、彼はその度に優しい微笑みを湛えて私のことを慰める。そういう生活が長く続くと、私もだんだん慣れてきて、彼が彼でなくても良いのではないかと思ってしまうことがある。彼が彼でなくても、私が彼だと思えば彼は彼だから。それでいいのではないかと思ってしまう。

 

 僕の恋人は言う。

 「あなたがあなたでなくても、私にとってあなたはあなただからそれでいいのよ。だから、あなたがあなたでなくても私は構わない。」

 では、僕は必要ない人間なのか。僕は僕が僕であることに意味があると感じていたのに。僕が僕でなければ、それは僕ではない。そんなこと僕にさえわかる。僕が僕なのかわからなくなったとき、彼女はいつも側に居てくれる。しかし、彼女は「僕は僕でなくてもいい」と言う。では僕は必要のない人間なのか。「僕」という存在は居ても居なくてもいいのか。

 

 「わからない。僕には価値がない。本当に価値がないんです。だから、あなたのお話が聞きたくて。それでこのアトリエにお邪魔した次第です。」

 

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