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七草文庫

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COMIC CITY 東京 135 頒布物のお知らせ

参加情報の更新です。

 

COMIC CITY 東京 135(1月25日・東京ビッグサイト)
サークル名:七草文庫
スペース:
東4・5ホール
と23b(創作小説)

頒布物



タイトル:七草童話 もりのおはなし
こんな感じの本を出します~。宜しければお立ち寄りください!

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ひのがみの贄 其の三

六の店は御堂稲荷神社の前を通る細い道に面した場所にあった。しかし入り口はその道に面しておらず、路地を通らなければ店に入る事は出来ない。これは彼の店がある「場所」に理由があった。御堂稲荷神社に面する地域一体は「御堂」と呼ばれ、「火守」のようにその地域を治める「稲荷神社」が無い特殊な地域である。「御堂」は「くじ」とは無関係の永住権を持つ商人が集められた地域で、特に御堂稲荷と「縁が深い」者達が住んでいる。六もまた、その一人であった。

店の中は商売をしているとは思えないほどすっきりしていた。居間には棚が一つあり、そこに薬やお札が乱雑に置かれている。六は桐を居間に通すと、壁に立てかけてあった机を床に戻して「適当にくつろいでいてくれ」と言って台所へと消えた。桐は初めて入った「他人の、しかも男の家」に緊張していた。この部屋は不思議な匂いがする。香のような、色々な匂いが混じった香り。薬の匂いなのだろうが、慣れない匂いに囲まれて落ち着けない。きょろきょろと周りを見回す。部屋はお世辞にも綺麗とは言えない。専門書のような本が山積みにされていたり、作りかけの薬が放置されていたり。とても「生活感」がある部屋だと桐は思った。

 

「待たせたな」

 

六は湯のみを二つ持って戻ってきた。湯のみからは嗅いだ事の無い匂いがする。

 

「毒なんか入ってないぞ。むしろ体に良い。俺はこれでも、この町で唯一薬を売ることを許された『専売』の薬売りなんだ。この手の調合には自信がある」

 

桐は湯飲みを手にとって、中の湯を一口だけ口に含んだ。最初に苦味を感じて思わず顔をしかめたが、後から来た甘みが苦味を打ち消す。なんとも癖になる味だ。ごくごく、と喉を鳴らして一気に飲んでしまった。

 

「おいしいかい」

 

その問いかけに、桐は素直に頷いた。

 

「落ち着いたかい。どうしてあんなところに居たんだ」

 

六は心配だった。路地で桐を見たとき、彼女がとても怯えているように見えた。何か「恐ろしいもの」に追われていたように。そしてその「恐ろしいもの」に心当たりがあったので、放ってはおけなかったのだ。

 

「火守稲荷が怖かった……」

 

桐の言葉に、六は「やはり」と思った。彼の目から見ても、あの時の火守稲荷は異常に見えた。

 

「そうだろうな。ああいうあいつの顔を見たこと無いだろう」

 

桐は頷く。

 

「俺も見たことが無いんだ。いつものあいつとは違う、別人のようだった。俺も怖かったよ、さっきのあいつは」

 

 小鳥を見るような目で桐を見つめる火守稲荷の姿を思い出して、少し寒くなる。六は湯のみの中の物を一気に腹へと流し込んだ。そんな六を、桐は安堵した表情で見つめていた。自分が感じた「恐怖」を分かり合える人が居て少し安心したのだ。てっきりあの異様な場所から逃げた事を咎められるのかと思った。

 

「あの……、私が逃げてきた事を怒らないのですか」

 

 桐は恐る恐る尋ねた。六は不思議そうな顔をして桐を見つめる。

 

 「何で俺がお前を怒るんだ。何か俺に怒られるような事でもしたのかい」

 「だって……」

 

 六が火守稲荷と親しい間柄であるから。火守稲荷の所へ連れ戻されてしまうのではないかと脅えていた。しかし、六は桐が火守稲荷や「ひのがみ」とどのような関係なのかを知らないようだった。この人ならば、救いの手を差し伸べてくれるかもしれない。桐はその微かな希望に縋ろうと思った。

 

「六さん、聞いてください」

 

 六は口を開いた桐の顔を見てはっとした。さっきまで脅え、震えていた少女の瞳は、何か硬い決心をしたような強い光を宿していたからだ。桐の言葉を聞かなければならないと思った。

 

 桐は心の中に秘めていた自分の境遇を六に話した。この町の生まれではないこと。家族はもう居ない事。武衛に命を救われた事。「ひのがみ」に世話になっている事。「火守稲荷」と「ひのがみ」の外には出ることが出来ない事。「ひのがみ」の火を守っている事。つっかえながらも、言葉を一つ一つ考えて話した。桐が知りえる事全てを、初めて赤の他人に話した。

 六はその話を聞いて、桐が「自由」ではない事を知った。この町で生まれ育ったが、桐の存在は今まで知らなかった。「ひのがみ」と「火守稲荷」は桐を隠していたのだ。きっと桐が話した全てが「真実」ではない。桐にすら隠している事があるに違いない。それは表に出せない、何かどろどろとした醜いものかもしれない。それらを桐が知らないのが幸いだった。

 

「分かった。俺がなんとかしてやる。安心しろ」

 

 六は桐に言った。なんとかしなければ、と思った。

 

 六は桐を連れて御堂稲荷神社に向かった。きっと家にも「ひのがみ」の者が訪ねてくるだろうと踏んだからである。桐が見つかる其の前に、もっと安全な場所へ移動する必要があった。御堂稲荷神社は六にとって「一番安全な場所」である。故に、そこに桐を隠そうと思い立ったのだった。家の裏口を出ると、細い通りを挟んですぐ御堂稲荷神社に着く。人目を避けるように正面の鳥居を避け、脇道を通って社へ続く回廊へ入った。

 桐はこの神社に来るのが初めてだった。御堂稲荷町を統括する元締めであるという話は聞いていたが、間近で見る機会に恵まれなかった。煌びやかな装飾が施された社が眩しい。せわしなく働く狐達や、ひっきりなしに訪れる参拝者達で境内は賑わっている。静まり返った社の中へと続く回廊から見る風景は、まるで異世界を見ているかのような感覚だった。

 

「そんな不安そうな顔をするな」

 

 六は回廊の外を見つめていた桐に話しかける。

 

「今から会いに行く人は、俺が一番信頼している人だ。絶対になんとかしてくれるって。だから安心しろ」

 

 桐は何も言わずに頷いた。

 

 本殿の入り口に着くと真っ白な髪の女性が二人を出迎えた。真珠のように白く輝く長い髪を後ろで一つに束ね、朱と藍の瞳を持った美しい女性だった。「お待ちしていました」と女性は言った。桐と六が社を訪ねる事を知っていたようだ。社の中に入るとぴりぴりとした空気が桐の肌を伝った。思わず身震いしてしまいそうな張り詰めた空気だ。外の世界とは違う、どこか火守稲荷の顔を思い出させる空気だった。

 社の中は大きな一つの広間となっていて、御簾で隠された大きな祭壇以外は何も置かれていなかった。二人は少し待っているように言われ、広い社の真中辺りに座った。桐は緊張していたのか、そわそわと落ち着かない様子である。御堂稲荷は御堂稲荷町の起源とも言える社で、そこに祀られている神はすなわち町の元締めである。火守稲荷の上に立つ存在というだけで、桐にとってとても恐ろしいに思えたのだった。

 

 十数分ほど経っただろうか。がら、と奥の扉が開く音がして御簾の向こうに黒い影が見えた。

 

「六、来ましたね」

 

 御簾の向こうから幼い子供の声がした。

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近況報告

なんとか脱稿出来そうな予感……。

脱稿出来たらHP改装やらなんやらしますね。年明けまでには出来るようにがんばる。

とりあえず原稿終わらせまする。

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