- 2024/11/24
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このサイトは一次創作の短編・連載小説を主に置いています。宜しければご覧下さいませ。
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小川が流れる小さな野原に横たわり、空を流れてゆく雲をいつまでも眺めていた。空は同じ表情を浮かべない。見る度に違う表情を僕に向けてくれた。
春が来て、夏が来て、秋が来て、冬が来た。時間がいくら流れても、この場所だけは僕を僕のままに留めてくれる。ああ、そうだ。此処が僕の・・
ふと目を覚ますと、オレンジ色に染まった空が目に入る。寝てしまったのか。おもむろに腕時計を見ると、既に夕方の五時を回っていた。重い体を起こして大きく伸びをする。川辺に吹く心地よい風が僕に秋の訪れを告げた。
今は秋なのか。
ぼんやりと頭の中に残るあの野原の景色が一瞬僕の目の前に現れる。しかし其れは夢なのだ。現実には存在するはずがない。
眠る前までは当たり前のように秋を感じていたはずなのに、まるで「秋」という存在を忘れてしまったかのような妙な錯覚を覚えた。
おかしな感覚だ。僕はまだ、夢を見ているのかもしれない。本当はあの野原に寝転んで、まだ雲を見ているのだ。
おそらくこれも錯覚なのだろう。僕は再び河原に寝転んで目を閉じる。夢を見ているのなら、もう覚めても良い頃だ。さあ、行こう。
しかしいくら時間が経っても僕があの野原に戻ることはなかった。それどころか、あの野原がどういう場所だったのか・・だんだんと思い出せなくなってくる。確かにそこに僕は居たのに、野原は僕の頭の中で目まぐるしく変化し、ついには元の形もわからない荒野へと姿を変えてしまった。
僕は荒野に一人きりで立っていた。暗く、星も月も見えない空に抱かれてただ一人、何をするわけでもなく荒野に立ち尽くす僕。あの野原は、もうどこにもない。僕は悲しくなってその場にしゃがみこんだ。
気がつくと、僕は河原の下に寝転がっていた。知らぬ間に転がり落ちたのか、それとも誰かに落とされたのか・・。体中に打ちのめされたような痛みを感じる。空を見上げると、明るい月が僕を照らしていた。
ああ、良かった。僕は一人じゃなかった。
僕は河原に座っていた。静かに流れる川の音と、秋を告げる虫の声、そして明るいつきの光。これも夢なのではないだろうか。現実なわけがない。こんなに美しい景色が、現実なわけが・・・
ふと川を見ると、真っ白な月が煌々と照っていた。それは空に浮かんでいるそれよりも美しく、神々しかった。
美しい月だ。こんなに美しい月があるのだから、あの下には野原があるのかもしれない。僕の中から消えてしまったあの美しい野原が・・
僕は吸い込まれるように川の中へと入っていった。体中の痛みも、刺すような水の冷たさも、本当は濁っていた重い水の流れも感じない。そこにはきっと、僕の野原があるに違いない。
月に手を伸ばす。どろ、どろ、とそれは形を崩して僕の体にまとわりついた。視界が遮られ、ごぼ、ごぼ、という音共に何も聞こえなくなった。体が強い力で何かに引っ張られる。
何故そんなに引っ張るんだ。そんなに美しい世界があるのか。僕を連れて行ってくれるのか、あの野原へ。
それとも・・・