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七草文庫

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原稿なうです

12月までに原稿を完成させるべく、ゆるく頑張っている毎日です。
童話だけどちょっとホラーで黒い感じになってしまった。
ま、いいか。

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こうしんしました。

火守の2話を掲載しました。個人的には火守稲荷さんが結構お気に入り。
ああいう何処か歯車の狂っている人が好きです。
次回辺りにでも、御堂さんにご登場願おうと思います。



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ひのがみの贄 其の二

 火守の中心部に鎮座する火守稲荷神社。御堂稲荷神社と比べると規模は小さいが、火守の住人達によって支えられる権威ある神社である。その入り口に二人は立っていた。男はやはり悪い人じゃなかった、と桐は思っていた。本殿の入り口に神職の姿をした若い男が立って手を振っている。彼が火守稲荷である。

 

「あれ、火守さん、今日はなんか『若い』ですね」

 

 六がわざとらしく言う。

 

「大切な人に会うのに、年老いた姿では申し訳ないでしょう」

 

 火守稲荷は微笑んで言った。桐は六の言葉がよく分からなかった。彼が桐と会うときはいつもこの格好だから。

 

「神様の『大切な人』だなんて、桐ちゃんは凄いね」

 

 六はそう言うと握っていた桐の手を離した。彼の手は暖かかったから、もう少し握っていたかったな。名残惜しそうに六の手を握っていた手を見つめる。そんな桐を火守稲荷は面白くなさそうな顔をして見ていた。

 

 社の中には既にお茶が三つ置かれていた。まるで二人が一緒に来るのを分かっていたように。桐はそんな事を気にも留めなかったが、六はそれを見て嫌そうな顔をした。

 

「で、六さんは何の御用なのでしょう」

 

 棘を刺すような言い方だった。

 

「今日は御堂稲荷の使いで来た。別にこの子とは何もないから安心しな」

 

 そう前置きをすると六は御堂稲荷に祭事で使う火を分けて欲しいと伝えて欲しいと頼まれた事を話した。火守の「ひのがみ」で使っている火は火守の神から貰った神聖な火で、御堂稲荷町の祭事に良く使われるのである。

 

「良いですよ。ただ、私は『ひのがみ』から離れていますので、桐さんに頼んで下さい。今あの屋敷を守っているのはこの子ですから」

「あれ、屋敷の祠は空だったんじゃないのか。」

「実は、今は桐に守ってもらっているのです」

 

 六は怪訝そうな顔で桐を一瞥すると、小さな声で火守稲荷に問いかけた。

 

「『ひのがみ』がお前以外の神を祀ったと言うのか」

「そんな訳ないでしょう」

 

 火守稲荷は桐を慈しむような目で見ていた。その目を見た六は背筋に冷たい物を感じた。

 

「この子は私ですから」

 

 桐は二人が自分の事を話しているのだと言う事は分かったが、言葉の真意までは理解することが出来なかった。六も同様に火守稲荷の言う事の真意が理解できずにいた。全くの他人であるはずの火守稲荷と桐が同一人物であるはずが無いからである。しかしそんな事をうっとりとした目で言う火守稲荷に、ゾッとした。鳥肌が立っているのがわかった。

 

「神様の考えている事は良く分からん」

「ええ、それでいいですよ」

 

 火守稲荷はにっこりと笑った。六はこの町で生まれ、この町で育った。故にこの火守稲荷とは物心ついた時からの知り合いである。だが、こんな表情は今までに見たことがなかった。自分が知らない火守稲荷が目の前にいることに、僅かながら恐怖心を抱いた。神は神。得体の知れない物であることには変わりないのか、と。そしてその感情が、隣にいる少女に執着する物であることが妙に不気味に思えた。

 

「話はもう、いいでしょうか」

 

 帰れ、と言われているようなものだと六は受け取り、「ああ、ちゃんと伝えたからな」と言って席を立った。部屋を出る際、桐に「ありがとうございました」と小さな声で言われたが、早く部屋を出たいと言う思いで一杯だった六は、彼女の言葉など耳に入らなかった。

 

 六は火守稲荷の社を出た時、外の空気がとても美味しく感じた。それ程あの場所は居心地が悪かったのだ。火守稲荷の目が怖かった。普段は温厚な性格の老人で、六は良く用もないのに立ち寄って世間話をしていた。しかし今日は全く違う、姿かたちも違う別人だった。いつものような笑顔の下に嫉妬の炎を滾らせ、その殺気立った目を六に向けた。思い出しただけで冷や汗が滲む。あの女の子は彼が抱いている感情を理解しているのだろうか。思わず案じずにはいられなかった。

 

 

 六が社を去った後、二人はお茶を飲みながら他愛もない会話を楽しんでいた。それこそ、「最近こんなことがあった」という世間話だった。話が「つまらない」とか「面白い」とか、そんなことは桐にとって重要ではなかった。ただ「火守稲荷とお茶を飲みながら話をする」という事自体を楽しんでいた。ただ、いつもとは違ってどこか落ち着きがない様子だった。火守稲荷の話に相槌を打ちはするが、他の事を考えているような顔をしていた。勿論火守稲荷もその事に気付いていて、内心穏やかではなかった。

 

「私の話はつまらないかな。」

 

 思わずそう言ってしまう程、桐の表情は曇っていたのだ。桐ははっとすると首を振った。

 

「いえ、つまらなくなんか無いです。」

「でも、私の話を聞いていないよね。何か別の事を考えているのかな。それとも……他にやりたい事や遊びがあるのかな。」

 

 桐は火守稲荷の機嫌を損ねないように「そんなは事ないです」と言って笑おうとしたが、火守稲荷の顔を見た途端顔を引きつらせてしまった。「ひっ」という声が出そうになったが、なんとか堪えた。火守稲荷の声は穏やかだし、表情は柔らかく笑っているように見えたが、その目は冷たい光を湛えていた。「優しいお兄さん」のような顔しか見たことが無かった桐は、瞬間的に見えたその顔に恐怖を覚えたのだ。

桐が見せた怯えるような表情に火守稲荷は戸惑った。少し大人気ない態度を取ってしまったか。

 

「ごめんね。そうだ、美味しいと評判のお菓子を買っておいたんだ。取ってくるから一緒に食べよう」

 

桐の機嫌を取ろうと、買っておいた菓子を取りに行くために火守稲荷は席を立った。これを食べればきっと機嫌を直してくれるだろう。見初めた日から自分の命を分け与えるほど可愛がって、「ひのがみ」で蝶よ花よと育てさせた。いずれ自分の嫁にしようと思うが故、自分以外の、ましてや人間に心を寄せそうな彼女の姿が許せなかった。自分だけを見ていて欲しい、自分だけの物にしたいという醜い独占欲と嫉妬が、火守稲荷の内面に渦巻いていた。

元々は「ひのがみ」の守り神として穏やかに暮らしていたが、この町に来た途端に「ひのがみ」との縁を切り離されて不満が募っていた火守稲荷だった。「ひのがみ」の為に生きてきた故に「火守」や「関」を守るということは火守稲荷にとって「無意味」でしかなかった。そんな中、現れた桐はまさに光だった。自分の魂を分けて「ひのがみ」に与える事で、再び「ひのがみ」との縁を結ぶ事が出来る。それは何にも代えがたい喜びであった。そして、そんな縁を与えてくれた桐は火守稲荷にとって心の支えだった。とてつもなく愛しくて、可愛らしく思えた。だから、自分が彼女を一番愛し、大切にするために桐を「ひのがみ」と「火守稲荷神社」から出さない事にしたのである。「御堂稲荷町」には「桐」という少女は存在していない。認知されていないのはこのせいである。

 

それだけ愛しても、水が手から滑り落ちるように桐もまた抜け穴を抜けようとしていた。火守稲荷が席を立った後、足音を立てないようにこっそりと社を出た。怖かったのだ。何か見てはいけないものを見てしまったような気がして。社から出来るだけ離れたくて、人の声が聞こえる方へ走る。自分が何処を走っているのか分からないが、がむしゃらに足を動かした。

火守は工房所が狭しと建っている入り組んだ地域である。路地が迷路のようになっているが、まっすぐ走ればどこかしら火守の外に出るようになっている。桐が出たのは「御堂通り」という町一番の大通りだった。

御堂通りは参拝者や外から来た商人の為に整えられた大通りで、狐峠からの「関」と、その反対側にある「関」を繋ぐまっすぐな道である。多くの宿屋や土産物屋はこの通り沿いに建ち、いつも大勢の人でごった返している。人が多い場所に出て、桐は少し落ち着いた。人込みに紛れて、どこか安全な場所まで移動しよう。人間の波の中に身を投じる。御堂通りを流されるうちに、大きな鳥居が目に入った。火守稲荷神社のそれとは比べ物にならない、遠くからもはっきりと認知できる大きさの鳥居である。桐が紛れ込んだ集団はその鳥居の方へと向かうようだった。

神様のところへ行ったら、火守稲荷に告げ口をされたりするのかな。そんな不安が心の隅に湧き出したが、集団から出る勇気も無く、御堂通りから逸れてその鳥居をくぐる。御堂稲荷神社の参道に入ったのだ。先程の大通りとは雰囲気が違い、道沿いには神具を扱う店が多い。本殿を向かう前に集団を離れ、参道の脇道へと入る。表とは違い、狭い道に何を売っているのかわからない店がぎっしりと並んでいる。屋根と屋根が重なっているのか、太陽の光が届かない為に薄暗い。

 

「これからどうしよう……」

 

思わず本音が口からこぼれた。きっと今頃、「ひのがみ」に連絡が行って大騒ぎになっているだろう。火守稲荷も怒っているかもしれない。咄嗟に出てきてしまったが、これから行くあても無い。気分が酷く落ち込んで、その場に座り込んでしまった。ぽろぽろと涙が出てきて、一人でひっそりと泣いた。

 

「おい、ここは参拝者立ち入り禁止だぞ」

 

背後から聞き覚えのある声が聞こえた。桐が振り向くと、先程別れた男が立っていた。

 

「あれ、さっきの……桐ちゃんだっけ。どうしてここにいるんだ」

 

六は不思議そうに首を傾げていたが、桐の腫れた目を見ると桐に手を差し伸べた。桐が戸惑っていると桐の手を無理やり掴んで立ち上がらせ、何も言わずに歩き出した。桐は、さっきとは違って「怖い」と感じなかった。むしろ、この男が現れたことに酷く安心した。繋いでいる手が、暖かくて頼もしかった。

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