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七草文庫

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終電

この電車は最終電車。だから僕は片道切符を買った。もうこの電車のあとには電車は無い。帰る電車もない。だから僕は片道切符を買った。荷物はコインロッカーに入れて、片道切符とロッカーの鍵を握り締めてホームに入る。

 外は真っ暗。ここは田舎だから。駅の周りには何もない。街灯も、店も、家に帰る人も。駅のホームには僕ひとり。駅の明かりだけが真っ暗な田んぼだらけの場所にぽっかりと浮かんでいる。駅員さんも居ない。電車を待つ人もいない。

 

電車はまだ来ない。僕はホームのベンチに腰を掛ける。吐く息が白い。しーんと静まり返ったホーム。まだ冬だから、冷たい空気が僕の隣に座っている。手をこすり合わせて少しでも暖かくしようとすると、ギターを弾きすぎて固くなった指の皮が剥けていて痛い。ギターは置いてきた。後悔はしていない。

この電車は最終電車。だから僕はそれを待つ。もうこの電車以外に乗る電車はない。これに乗って僕は遠い、遠い場所へ行く。最終電車は何処までも行く。最終だからね。僕はそう呟いて、一人で笑った。

 

しばらくすると、ホームに電車が入ってきた。旧式の昔ながらの電車。もちろん乗客はゼロ。僕はベンチを離れて電車に乗った。車内は暖房が効いていて暖かい。思わずほっとして、誰も居ない椅子に腰を掛ける。僕の貸切だ。さあ、何処まで行こう。

この電車は最終電車。だから帰りの切符は買っていない。

 

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