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七草文庫

Home > ブログ > 2014年08月10日の記事

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問題

 彼女は聖人のような人でした。全てを愛し、愛されるような人でした。特別に美しいというわけではありません。何処にでもいる普通の女性です。では何故「聖人」のような人間だったのかと言うと、心が澄んでいる人だった、という事が原因だったように思います。どんな苦難も受け入れ、どんな罪をも許す姿が菩薩のように見えたのかもしれません。きっと誰が見てもなにか神聖な存在のように感じるでしょう。

 そんな彼女だったのですが、ある日人を殺めてしまいました。『聖人』のような人であるにも関わらず、何故彼女は人を殺めるという許されざる罪を犯してしまったのでしょうか。

 

 警察が部屋に入った時、彼女は手に包丁を持っていたそうです。その包丁は血に塗れていて、真っ白なワンピースも赤黒く塗りつぶされていたのだそうです。彼女は警察を見るとにっこりと笑って、言いました。

 

「『彼女』を殺したのは私です」

 

 彼女の足元には女性が倒れていて、胸の辺りが赤く汚れていたそうです。警察はそんな彼女の様子を不気味に思ったそうですが、抵抗することもなさそうなので「気は触れていないのだな」と安心したのでしょう。婦人警官が彼女に付き添って警察署まで連れて行ったそうです。

 しかし、彼女は取り調べ中に奇妙なことを言い出したらしいのです。

 

「もしも私が神や聖人の分身なのだとしたら、『彼女』はきっと救われたのだと思います。私は『彼女』を愛していました。それと同じように、『彼女』も私を深く愛してくれていました。『彼女』を殺めるという事は、私にとっても『彼女』にとっても幸福なのではないでしょうか」

 

 それを聞いた警官は、彼女の言葉の真意を理解できず、やはり気が触れているのではないかと感じたそうです。果たして彼女はおかしくなってしまったのでしょうか。私は、彼女はとても冷静だったのだと思うのです。彼女は聖人のような人間だったからこそ『彼女』を殺したのではないのかと。とはいえ、これは私の推測に過ぎず、真実は彼女しか知りえないのですが。

 

 彼女は果たして、聖人だったのでしょうか?

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